2023年10月31日火曜日

Flow-controlled ventilation と心臓手術

 新しい換気モード (flow-controlled ventilation: FCV) に関する論文 (Spraider P, et al.  J Clin Anesth 2023; 91: 111279) を読みました。

 FCV は吸気および呼気におけるフローをコントロールすることで、肺組織への機械的な影響を最小限にするというものです。

 人工心肺下に行われる心臓手術を受けた患者をランダムに 2 群に分け、一方は FCV、他方は PCV で人工呼吸管理を行ったところ、PCV 群にくらべて FCV 群では酸素化が優れており、normocapnia に維持する上で分時換気量が低く、肺の非含気領域が小さかったということでした。

 この論文で最も印象的だったのは、介入群も対照群もどちらも人工呼吸の設定が個別化 (individualized) されていたことです。
 個別化した PEEP レベルを固定値(例えば 5 cmH2O)と比較するなどというパターンはよくあるわけですが、どちらも個別化されているというのは初めてでした。

 FCV は臨床ではまだあまり用いられていないようですので、これから片肺換気や肥満患者、ヘッドダウンでの腹腔鏡手術などでの有用性の評価が待たれるように感じます。

2023年10月30日月曜日

低血圧と AKI

 最新の研究というわけではないのですが、膀胱全摘術中の低血圧が術後の AKI に与える影響に関して調べた論文 (Löffel LM, et al.  J Clin Anesth 2020; 66: 109906) を読みました。 

 手術中の平均血圧に 3 種類の閾値 (55, 60, 65 mmHg) を設け、それぞれの閾値を下回った時間の累計と AKI の発生との関係を調べるのが主たる目的で、それぞれの閾値を下回る血圧が1分間長くなるごとに AKI のリスクがおよそ 1~1.2% 増加するということが示されていました。

 400 人以上の患者さんについて、A ラインから得られた血圧を 1~5 分おきに記録したものを分析したということですが、これを厳密に行うにはたいへんな努力を要したことと思います。
 多くの施設では生のデータを永久的には残さずに、画像データのような形で残すのが常だと思いますので、血圧を数値データとして残すのは工夫を要したことと思います。

 ちょっと気になったのは、この研究では制限的な輸液管理を行っており、硬膜外などのために血圧が低下傾向となるのに対してノルアドレナリンを使用していた点です。
 最近の流行とはいえ、こういった管理が比較的高い AKI の頻度につながっていたのではないかと考えずにはいられませんでした。

2023年10月28日土曜日

名古屋に行ってきました

 遅めの夏休みを使って、名古屋に行ってきました。
 名古屋に行くのは久しぶりで、飲んだり食べたり、城めぐりをして楽しみました。 

 名古屋城そのものが巨大な上に敷地も広大で、イケメン俳優っぽい若者がツアーのガイドをしていたり、忍者のパフォーマンスがあったりと、エンタテイメント満載でした。
 近隣にもおいしいものがいっぱいで、1日楽しめそうな雰囲気でした。

 一方、犬山城はさすが国宝だけあって、本物で重厚な感じがしました。
 天守閣に行くのに急で狭い階段を上らなければならず、バリアフリーではない時代は大変だったんだろうなーとか、階段を落ちてケガする人が絶えなかったんだろうなーとか、どうでもいいことですが想像せずにはいられませんでした。
 天守閣からの 360 度の眺めは最高でした。

 写真は正面から写した犬山城です。
 紅葉の時期だったら、また格別な美しさだったのではないかと思います。

 

2023年10月26日木曜日

GDFT とアウトカム

 目標指向型輸液療法 (GDFT) が片肺換気を要する胸部手術後の転帰に与える影響について調べたメタ解析 (Li X, et al.  World J Surg Oncol 2023; 21: 297) を読みました。

 この研究によると、対照群にくらべて GDFT 群で合併症全般の頻度および術後肺合併症の頻度が低かったのですが、興味深いことに GDFT 群でトータルの輸液量が少なかったということでした。

 輸液過多が胸部手術後の肺合併症のリスクを増すことを考慮すれば、輸液総量が少なかった GDFT 群で合併症の頻度が低かったこと自体は意外ではありません。

 ですが、術後 AKI 低減を目的としてGDFT を行う際には一般的に GDFT 群で輸液量が多くなりがちであることから、胸部手術においては輸液総量が少なくなるように目標を設定されている点が、自分にとってはとても興味深かったです。

 この論文ひとつ取り上げても、一口で GDFT とは言ってもその中身(目標とするパラメータの設定)が多様であることは明らかであり、GDFT をやりさえすれば転帰が改善するなどとはとうてい言えないと感じました。

2023年10月23日月曜日

ひたちなかのコキア

 昨年に続いて、今年も赤くなったコキアを見に、国営ひたち海浜公園に行ってきました。

 私がこれまでこの公園に行った中では、今回が最も人が多かったように思います。
 人が多すぎて、丘を上り下りするのもたいへんなほどでした。

 8月にまだ緑色だったコキアを見に行った時も感じたのですが、丘の上の方はこの写真のようにコキアがまばらで、地面が一部むき出しになっていました。
 今年が暑すぎたためかもしれませんが、成育がやや不十分なように感じられました。

 一方、コスモスに関してはすごくきれいでした。
 そばの花もたくさん咲いていました。
 新そばの季節が楽しみです。

2023年10月17日火曜日

【臨床研究研修会】リアルワールドデータ

 臨床研究研修会「製薬企業におけるリアルワールドデータ/疾患レジストリの利活用」にオンラインで参加しました。

 公的な業務に携わっているわけでも、希少疾患を対象に研究を行っているわけでもないので、自分の研究には全く縁遠いものだということがよくわかりました。

 実際の利活用にはかなり高いハードルがあるようで、製薬会社の人たちは相当なご苦労をされているように思われ、次にリアルワールドデータを用いた論文を読む際には、そういうことも頭にちらつくのではないかと思いました。

2023年10月16日月曜日

退院後の AKI を防ぐ

 AKI の文献を検索している時に、ちょっと珍しい論文 (Westfall KM, et al.  Dis Colon Rectum [Online ahead of print] (PMID: 37703205)) を発見しました。
 大腸直腸手術を受け人工肛門を有する患者さんでは、脱水や AKI のために再入院する頻度が高いらしいのですが、術後に経口補水を勧め、インアウトバランスを評価し、退院後に看護師による再教育を受けるなどにより、退院後の転帰が改善する、すなわち再入院の頻度や退院後の AKI などが低減するという内容です。

 術後 AKI 予防の取り組みはその多くが手術中や手術直後に行われると思うのですが、この研究における退院後の AKI を防ぐという観点がとても目新しく感じました。
 また、多職種で連携して患者さんの転帰改善に寄与するという点も、時流に乗っている感じがしました。

2023年10月13日金曜日

PEEP の個別化

 PEEP を一律にかけるのではなく、患者さんによって最適なものを提供するという考え方が、集中治療領域だけでなく手術室での人工呼吸でも広がりつつあるようです。
 個別化の方法は何通りもあるのですが、多くの研究では個別化した PEEP が一律のもの(多くは低めの値)よりも優るという結果が示されています。

 ところが、今朝読んだ Boesing らの論文 (J Crit Care [Online ahead of print] (PMID: 37690365)) は違いました。 
 この研究では VV-ECMO 下に超保護的人工呼吸を受けている患者を対象に、個別化した PEEP と固定値での PEEP を比較しているのですが、固定値群で mechanical power が低く、血行動態や酸素供給が優れていたということです。

 個別化がつねにいいというわけではない点が、とても目新しく感じられました。
 ただ、VV-ECMO での管理下にある ARDS 患者さんにおいて、肺を完全に休ませるという選択肢もある中で、個別化した PEEP を用いる意味がどれほどあるかということを考慮すると、ひょっとしたら研究の意義自体に疑問の余地があるのかもしれません。

2023年10月12日木曜日

片頭痛の講演会

 オンラインの片頭痛に関するオンラインの講演会を聴講しました。 

 基礎の基礎からわかりやすく解説していただいたので、私のようにペインクリニックに疎い者でもよく理解できました。

 反復性片頭痛のうちに正しく診断を行い、治療を始めないと、慢性してからでは治療に難渋することになるということでした。

 日本人はがまん強く、頭痛で受診することをためらう傾向にあるので、特に注意が必要なのだそうです。

2023年10月11日水曜日

DLT vs. BB

 胸部手術における気道管理デバイスとして、ダブルルーメンチューブと各種気管支ブロッカーがしばしば比較の対象になります。

 Shum らの研究 (J Cardiothorac Vasc Anesth [Online ahead of print] (PMID: 37684137)) によると、 肺分離 20 分後の Lung Collapse Score がダブルルーメンチューブ群で有意に低い(肺の虚脱の程度が弱い)という結果が出ており、とても興味深く感じました。

 ダブルルーメンチューブの非換気側ルーメンの方が気管支ブロッカーの中空部分よりも圧倒的に太いわけですから、ダブルルーメンチューブの方が同等以上の結果を示さないといけないように思うのですが、そういう結果にはならなかったようです。

 残念ながらこの結果について想定される機序は論文中に述べられておらず、モヤモヤした感じが残ってしまいました。

2023年10月8日日曜日

コスモス --- 今年も摘みました

 せっかくの連休なので、佐倉ふるさと広場にコスモスを観に行きました。 

 今年は摘み取らなくてもいいかな・・・と思っていたのですが、実際に現地に行くと、やっぱり摘みたくなってしまいます。
 バケツやスコップなどを借りて、今年も摘んでしまいました。
 10 本で 200 円でした。

 昼は志津駅近くの「三乗」というソバ屋で食べました。
 ネットによると隠れ家的な感じという紹介なのですが、まさにそんな感じでした。
 鴨せいろがうまかったです。

2023年10月6日金曜日

【土曜日勉強会】抄読会と麻酔器の説明

 土曜日恒例の勉強会は、前半は抄読会、後半はドレーゲル社による麻酔器の説明でした。

 H先生の紹介した論文では、切除不能膵がん患者における神経破壊薬を用いたブロックが転帰に与える影響に関するものでした。
 神経ブロックがオピオイドの急激な消費の増加を抑えたこと、身体的QOLを改善したというのが、主な結果のようです。

 Y先生が紹介したのは、不安感受性がPONVに影響を与えるかどうかについて検討した論文でした。
 ASI-3 スコア 8 点以上を不安感受性が高いとした上で、これが PONV のリスクを 5 倍にしたというのが主な結果でした。
 統計処理について、さまざまなディスカッションが行われました。

 ドレーゲル社による勉強会では、「今さら聞けない?! 麻酔器の基本」というタイトルで自社製品のみならず麻酔器一般に関する説明がありました。
 人工呼吸器の駆動ガスを説明するアニメーションがとてもきれいで、動画ならではの表現であり、書籍では再現できないほどのわかりやすさでした。

 本当に「今さら」なのですが、確かに蛇管を使う長さに設定してからシステムテストを行うべきでしたね。
 システムテストをしてから何気なく蛇管を伸ばしたりしていましたが、これは本当は良くないということがよくわかりました。

2023年10月5日木曜日

非侵襲的な輸液反応性の予測(その2)

 先週の金曜日にも書きましたが、A-line を入れずにエコーを使って動脈の血流を描出し、非侵襲的に輸液反応性を予測する試みが流行っているようです。

 今日読んだ Roy らの研究 (Cureus 2023; 15: e42083) では、頚動脈血流の収縮期ピーク速度の呼吸性変動の性質について調べており、これが PPV や SVV のように輸液負荷後に減少すること、左室流出路の VTI の変化率との間に有意な相関があることが示されていました。

 残念なのは、この研究がショック患者を対象としており、全ての患者で輸液反応性があることを前提として進められていたことです。

 A-line を用いた輸液反応性の予測と同様に、輸液反応性がある患者とない患者との間で指標(頸動脈の収縮期ピーク速度の呼吸性変動)に差があるのか、両者を識別する適切な閾値が得られるのか、グレーゾーンはどの程度の範囲なのか、といった素朴な疑問に答えられるようなデザインで研究が行われることを期待します。

2023年10月2日月曜日

後半スタート

 2023 年度も後半に突入し、研修医が総入れ替えとなり、顔ぶれが一新しました。

 さらに都立病院から2人の若手麻酔科医が来て、当科での短期の研修が始まりました。

  新しいメンバーで、さらにアクティビティを上げていきたいところです。

2023年10月1日日曜日

今一つだったヒガンバナ

 昨年に引き続き、ヒガンバナを観にあけぼの山農業公園に行ってきました。

 この時期のあけぼの山農業公園のメインはどちらかというとコスモスで、ヒガンバナは「知っている人は知っている」という感じで、それを目的にして来ている人は少ないのではないかと思います。

 以前に来た時はものすごく咲いていたように思うのですが、今年は今一つで写真に示したような感じでした。
 路上にふつうに咲いているものの方が、きれいかもしれません。
 今年の異常な暑さの影響を受けているようにも思います。 

医科歯科のままでした

 今日から「東京科学大学」の看板がかかっているのかな・・・と思ったのですが、今朝の時点ではまだ「医科歯科」のままでした。  看板を変えるのも、お金がかなりかかるんでしょうね。