2023年11月29日水曜日

敗血症における制限的輸液

 敗血症や敗血症性ショック状態にある手術患者に対しては、晶質液輸液を大量に行い、ノルアドレナリンを投与して血行動態の維持に努めるものなのではないかと思います。
 医師国家試験でも時々、敗血症性ショック患者に対する集中治療に関する問題が出ており、基本的にはそういう解答が求められているように記憶しています。

 ところが先日読んだ論文 (Shahnoor H, et al.  Cureus 2023; 15: e45620) では、敗血症および敗血症性ショック状態において制限的輸液を行い、それが転帰に与える影響を調べるメタ解析でした。
 メタ解析ということはこれ以前に多くの研究が行われているというわけで、実際、このメタ解析では 12 個の RCT を対象にしていました。
 結果としては、コントロール群にくらべて輸液制限群の死亡率、ICU 滞在日数、AKI の頻度などには有意差がなかったものの、機械換気の期間は有意に短かったということです。

 手術中の輸液のトレンドは ずっと制限的な方向に動いており、それが最近では反省期に入った ように見受けられるので、敗血症の輸液管理についても同様なのでしょうか。
 今後の動向を注目していこうと思います。

2023年11月24日金曜日

腎髄質の酸素化

 腎髄質の酸素化が手術の方法や血圧管理によって影響を受ける、という論文 (Chaba A, et al.  J Clin Monit Comput [Online ahead of print] (PMID: 37831377)) を読みました。

 論文のタイトルに "Renal medullary oxygenation ..." とあるので、どうやって腎髄質の酸素化を測るんだろうと思い、読んでみたわけですが、腎髄質の酸素化は尿の酸素化 (urinary PO2 (PuO2)) で評価しているということでした。

 PuO2 が腎髄質の酸素化の信頼できるマーカーであることは過去の研究で示されているということですので、以下にメモとして残しておきます。

・Osawa EA, et al.  ICMx 2022; 10: 52.
・Lankadeva YR, et al.  Kidney Int 2016; 90: 100-8.
・Osawa EA, et al.  Blood Purif 2019; 48: 336-45.

2023年11月23日木曜日

麻酔導入後の低血圧の予測

 麻酔導入前に自発呼吸の状態で鎖骨下静脈と大静脈の虚脱度 collapsibility を血管の最大径と最小径から求め、それを麻酔導入後の低血圧の予測に役立てる試みに関する論文 (Chen H, et al. BMC Anesthesiol 2023; 23: 340) を読みました。

 対象は消化器手術を受ける高齢者で、手術の準備のために長期間の絶飲食を要すること、高齢者では循環血液量が減少していることから、選ばれたようです。

 結果としては、鎖骨下静脈の collapsibility は麻酔導入後の低血圧の予測に有用なようで、循環血液量の目安としても日常臨床で手軽に使えるかもしれないと感じました。 

2023年11月21日火曜日

『千客万来』とは

 以前、LiSA に毎号、「悪魔の用語辞典」みたいなのが載っていたような気がするのですが・・・。

『千客万来』
 急患と延長症例で、17時の時点で B 棟のハイブリッドオペ室以外のすべての部屋が埋まっている状況。黒いユニフォームのナースの数が、いつまで経っても減らない。通常、フロマネ(オンコール)は、当直でもなんでもない人たちを夜勤帯に残すことにためらいを感じるものだが、この状態では逆に充実感と達成感を感じることがあるらしい。

『因果応報』
 病欠が2人いたこともあり、フロマネの時に10コ上の特任教授を朝から晩まで使い倒したところ、10コ下の麻酔科医に「10年後が楽しみですね(ニヤリ)」と言われること。  

2023年11月20日月曜日

有効腎灌流圧

 有効腎灌流圧 (effective renal perfusion pressure (eRPP)) と心臓術後 AKI の関係を調べた論文 (Dang P, et al.  Cureus 2023; 15: e45036) を読みました。

 有効腎灌流圧は Kopitko らが提唱した腎灌流圧の指標で、
eRPP = MAP - (IAP + CVP + mAir)    の式で計算するものです。
(MAP = 平均血圧、IAP = 腹腔内圧、CVP = 中心静脈圧、mAir = 平均気道内圧)

 血圧や腹腔内圧、中心静脈圧はいずれも AKI のリスクに関連しますが、これらを一つの式にまとめたところがとてもおもしろいと感じました。
 今後、はやるかもしれません。 

2023年11月17日金曜日

【土曜日勉強会】エンドトキシン吸着療法

 医局会のあとで、土曜日恒例の勉強会がありました。
 今日は集中治療部の M 教授による講演で、エンドトキシン吸着療法に関するものでした。
 ご自身のデータが大量にあるのが、さすがだと感じました。 

 長時間 PMX 療法では 24 時間経過しても、ある程度のエンドトキシン除去はできているということでした。
 PMX 療法前後での比較すると、P/F 比上昇、エンドトキシン濃度低下、vasoactive-inotropic score の改善が期待されるそうです。
 また、海外のランダム化研究では、PMX 療法により生存率上昇が示されたとのことでした。

2023年11月15日水曜日

子宮鏡手術における吸入酸素濃度

 全身麻酔中の吸入酸素濃度が、子宮鏡手術中に発生するガス塞栓に与える影響について調べた論文 (Deng X, et al.  Int J Gynaecol Obstet [Online ahead of print] (PMID: 37789807)) を読みました。

 この論文の考察を読むと、吸入酸素濃度はガス塞栓の発生に影響を与えるのではなく、いったんできたガス塞栓の維持に影響を与えると考えられているようです。
 つまり、酸素が血中にたくさんあると、ガス塞栓内に酸素が入り込んでガス塞栓の縮小につながるわけですが、窒素が血中にたくさんあると、ガス塞栓がそのまま維持されるということです。 

 吸入酸素濃度は無気肺、術後の悪心嘔吐、創感染などに影響する可能性があると考えられており、たくさんの研究が行われているわけですが、ガス塞栓への影響について調べた研究は目新しいように感じたので、紹介してみました。

2023年11月12日日曜日

極端に高い PEEP

 ロボット支援下前立腺全摘術において、PEEP の個別化が呼吸器系および循環動態のパラメータに与える影響について調べた論文 (Eur J Anaesthesiol 2023; 40: 817-25) を読みました。
 この論文の第一著者の Boesing はさまざまなセッティングで同様の研究を行っている、最もアクティブな研究者の一人です。

 この研究で特筆すべきことのひとつに、個別化した PEEP の中央値が 18 および 20 cmH2O と極端に高かったことが挙げられます。
 同様のパターンの研究で、個別化した PEEP が固定値 (5 cmH2O) よりもわずかに高いのはよくあることなのですが、これはさすがに高すぎるかなと・・・。

 日頃の臨床で用いられる PEEP 値でそこそこの満足感が得られている現状で、18 とか 20 cmH2O の PEEP を採用する気にはならないですよね。
 研究で行っていることが 100% 正しかったとしても、日頃の臨床からかけ離れた結果が出たのだとしたら、受け入れるのは難しいように感じられました。 
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 ついでながら秋バラが見ごろなので、今日は京成バラ園に行ってきました。
 写真は最近話題の青系統のバラです。
 青いバラを写真に撮っている人がものすごく多く、人気の高さが感じられました。

2023年11月11日土曜日

Oxygen reserve index

 Oxygen reserve index (ORi) によって片肺換気開始 15 分後の PaO2<150 mmHg を予測できる、という論文 (Bang YJ, et al.  J Anesth [Online ahead of print] (PMID: 37787833)) を読みました。 

 片肺換気開始 15 分後に動脈血液を採取し ORi 値と PaO2 の関係を調べるという、たいへんシンプルな研究デザインです。
 片肺換気開始からまもない時期ですので低酸素血症が発生するリスクは低く、PaO2 がいかにも ORi が威力を発揮する範囲(100~200 mmHg)におさまりそうな感じです。

 患者さんに負担がかかるわけではなく、忙しい臨床のスキを見てできるシンプルな研究デザインで、しかも得られるデータの意義が大きいという点ですばらしい研究だと思い、感心しました。

2023年11月7日火曜日

Supine transfer test

 急性循環不全患者において、supine transfer test が輸液反応性の予測に有用である可能性を示した論文 (Zhao Z, et al.  BMC Anesthesiol 2023; 23: 318) を読みました。

 Supine transfer test では 45 度の半座位から患者を仰臥位に体位変換するのですが、下肢からではなく内臓からの血液の再分布を狙いとしている点が passive leg raising (PLR) とは異なります。
 PLR ができない患者、例えば下肢静脈血栓症、の一部で実施できるというメリットがあるということです。

 PLR はもともと手術室では行いづらいわけですが、supine transfer test なら半坐位から仰臥位ですから手術患者さんでも実行可能かもしれません。
 半坐位から仰臥位への体位変換と言えばすぐに乳房再建術が思い浮かびますが、supine transfer test のいい候補と言えるかもしれません。

2023年11月4日土曜日

【土曜日勉強会】片頭痛と小児におけるエフェドリン

 今日は第一土曜日なので、土曜日恒例の勉強会では抄読会が行われました。

 一つは片頭痛に関する論文
Clinical evaluation of super-responders vs. non-responders to CGRP(-receptor) monoclonal antibodies: a real-world experience.  J Headache Pain. 2023
で、もう一つは小児患者におけるエフェドリンの効果に関するもの
Effective dose of ephedrine for treatment of hypotension after induction of general anaesthesia in neonates and infants less than 6 months of age: a multicentre randomised, controlled, open label, dose escalation trial.  Br J Anaesth. 2023 
でした。

 私は術前外来の担当だったので Zoom での参加だったのですが、現場ではディスカッションが盛り上がっているように見受けられました。

2023年11月3日金曜日

谷津バラ園

 天気が良かったので、久しぶりに谷津バラ園に行ってきました。
 以前に行ったのはコロナ禍だったので、バラ園の中にロープが張られていて来園者は一方通行で歩いていたのですが、今日はそんなこともなくお客さんでいっぱいでした。

 午後2時から園内のツアーがあり、それにくっついて歩きました。
 その際の説明で、今日はいろいろなことを学んだのですが、若干不正確なところもあるかもしれませんが、以下のようなお話が印象的でした。

・野ばらは一季性で、春にしか咲かない。
・ハマナスは野ばらの一種である。 
・黒いバラの色は本当は赤で、黒く見えるのはせん毛の影のせいである。
・香りは七分咲きまでが強い。
・青いバラを作るために、パンジーやビオラなどとの遺伝子組み換えを試みた。

 ツアーガイドの男性は高校を卒業してから 60 年以上、バラ業界に携わっているとのことで、おそらく 80 才ぐらいだったのではないかと思うのですが、ものすごくお元気で
2時間以上にわたって熱いトークを続けておられました。

2023年11月1日水曜日

HP 改訂しました

 自分のウェブサイトの中の、医学生向けのページ を改訂しました。
 薬物の細かい特性の暗記はともかくとして、ざっくりとしたイメージをつかんでもらえるように、ふだんの実習では工夫しているつもりです。

 麻酔科領域は国試の問題には出ない、あるいはほとんど出ないなどと誤解される傾向にありますが、実際にはペインクリニックや集中治療はもちろんのこと、周術期領域の問題がそれなりにたくさん出ています。

 ですので、「麻酔の問題は国試には出ないから、内科の勉強した方がいいよ」などと麻酔科医が学生に言っているのを耳にすると、ついついイラっとしてしまいます(笑)。

 手術麻酔関連の国試の問題については、おいおいウェブサイト上でまとめていくつもりです。


 

医科歯科のままでした

 今日から「東京科学大学」の看板がかかっているのかな・・・と思ったのですが、今朝の時点ではまだ「医科歯科」のままでした。  看板を変えるのも、お金がかなりかかるんでしょうね。